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ヒキニート遊星さんとリア充ジャック(1)

※現パロです。
※遊星さんがちょっと悪い子です。
遠くで二度、鴉が鳴いた。
バイクのエンジン音がして、分厚いカーテンの隙間からほの白い光が差す。
朝が訪れ、世界は今日もまわり始める。遊星を取り残して。



「いってくるよ。今日も遅くなりそうだ。」
「はい。いってらっしゃい、あなた」

薄く目を開けると浅い覚醒の中で両親の声が聞えた。ドアを閉め、施錠する音。やわらかな母の足音。ニュースを告げるテレビ。まわり始めた世界を拒絶するように、遊星は重い瞼を閉じた。

次に目をあけたのは、昼時をとっくに過ぎた頃だ。布団から這い出て耳をそばだてるが、物音はない。母は出かけたようだ。ダイニングテーブルに盆が置いてあり、ラップのかかった皿にパンと、チーズのオムレツ、サラダが乗っていた。ピンクの付箋に母の字でメモが書かれている。『おはよう。今日もいいお天気です。ちゃんと食べてね。お母さんより』

ガラスのコップに牛乳を注いで盆に載せ、付箋を捨てて、遊星は部屋に引き上げた。

パンを齧りながらゲーム機の電源を入れる。セーブデータを選択すると、今朝方まで進めた物語の続きが始まった。無機質な音楽をぼんやりと聞き流しながら、黙々と敵軍を倒すための定められた条件を満たしてゆく。

やがて母が帰宅し、台所から忙しない包丁の音、油の爆ぜる音、水音が聞え始める。日は傾き、窓の外から子供達のはしゃぐ声がする。早く日が沈んでしまえばいい。夜の闇は、遊星の焦燥を少しだけ和らげてくれる。腹が鳴ったので、気を紛らわせる為布団に入って目を閉じた。

目が覚めたのは夜中だった。くたびれた部屋着の上にブルゾンを着て、両親に気づかれぬ様そっと家を出る。そろそろ雑誌が入荷している筈だ。近所のコンビニで毎週読んでいる漫画雑誌を手に取り、ついでにいくつかの雑誌を立ち読みする。詫びのつもりで漫画雑誌の他に2、3の菓子と炭酸飲料を買い、無気力な店員に金を払って店を出た。

見上げる空は重苦しい色をしていたが、ほんの僅かに星が見える。街灯の明かりにかき消されそうなそれらを眺めながら、足取りは重い。

『一体、いつまでこんな生活を────』

父親の言葉が胸に刺さる。父とはずっと会話をしていない。部屋に鍵をかけ、昼は寝て、夜はゲームやネットに明け暮れている。一日過ぎるたび、世界が自分から遠ざかる気がする。もう、随分遠くなってしまった。漠然とした不安に襲われ、帰路を走った。



-------------------------

ある日の夕方、部屋の扉越しに母に話しかけられた。

「遊くん、あのね。お母さん今日お買い物に行ったの。今日は雨だから、Kマートじゃなくって、駅前のスーパーにしたのね。」

遊星は黙ってコントローラーを操作する。母の話はいつも冗長で要領を得ない。遊星が生まれる前は父と同じ研究員だったそうだが、本当だろうか。いつもふわふわと笑う母。優しく、しかし無力なひとだ。

「そうしたらね、駅のところで、アトラス君に逢ったの。アトラス君、覚えてる?」

遊星は弾かれたように顔を上げた。
衝撃のあまりコントローラーを取り落とす。テレビの中では、戦闘画面が表示され選択肢のウインドウが点灯している。

「アトラス君、帰ってきたんだって。だからね、今度遊びに来てねって言ったの。そうしたらね…」

息が詰まり、心臓が早鐘を打った。

「土曜日に来てくれるって。」

たまらず、布団を跳ね除け乱暴にドアを開けた。母が驚いて、目をいっぱいに見開いている。

「なんでっ…」

混乱して、言葉が出ない。まともに喋るのも久々だ。息を呑み、扉を閉めようとした遊星の腕に母が縋りついた。

「アトラス君、遊星に逢いたいって!だから、土曜日、いいよね?」

かっと頭に血が昇る。何故、そうして無遠慮に、こちらの領域に踏み込もうとする!

「勝手なこと…!ふざけんなババア!」

母を振り払って扉を閉め、鍵をかけると、なおも母は扉を叩く。

「お部屋出よう?ね?うちでお話しするだけって、お願いしてるから!いいでしょう?」

手元にあった本を扉に投げつけると、母の声が止まった。やがて足音が遠ざかる。本棚を背に遊星はへたり込んだ。

────ジャックが来る…

『アトラス君』ことジャック・アトラスは、小学生の頃の友人だ。父の同僚の子供で、一つ年は違ったが、毎日日が暮れるまで遊んだ。金髪に菫色の瞳。絵本から抜け出した天使のような容貌だったが、性格はとんでもない跳ねっ返りの悪たれ坊主だった。二人でおかしな悪戯をしては大人が驚く姿を見て大いに楽しんだ。遊星が6年生になる前に、親の仕事の都合で海外に引っ越した。以来、幾度か手紙をやり取りしたのみで、親交は絶えた。

引き篭もり始めたのは、高校2年の夏だった。
遊星は友人達の多く進学する地元の公立校を志望していたが、父の強い勧めにより、すったもんだの末に私立を受験した。そこは父の母校で、画期的なカリキュラムを揃えた名門進学校だったが、通学に片道1時間半かかる。どこか選民思想のような意識を持つ級友達にも馴染めなかった。話がかみ合わず、やがて周囲の目線はからかいの色を帯び、遊星の一挙一動は嘲笑の対象となって、遊星を嘲笑うことが他の者の結束となった。遊星は孤立した。惨めだった。

成績を徐々に落とし始めた遊星を父は叱責した。母は父を窘め、遊星を励ましたが、逆に追い詰められる気がした。通い始めた塾をさぼり、公園や川原、駅前の繁華街で時間を潰した。塾から警告が届き、両親と話し合って再び通う様になったものの、ストレスで胃を壊し、そこからは坂を転がるように堕落していった。学校を休みがちになり、部屋に篭るようになった。両親の干渉が煩わしく、部屋に鍵をつけた。外出が少なくなり、1日の大半を部屋で過ごす。食事や風呂は、夜中に親の目を盗むように済ませた。食事は母親が作り置いてくれたが、足りなければカップ麺や菓子を買って食べた。

楽しみは、漫画雑誌とゲーム。趣味の模型やフィギュアが届くとき。昔から細かい作業が好きだった。小学生の頃買ってもらった工具にはすっかり磨耗したアニメキャラクターのシールが貼られている。ジャックに貼られたものだ。

次々に完成するプラモデルやフィギュアで埋め尽くされた遊星の部屋は、小さな楽園になった。誰にも傷つけられることのない、一人だけの楽園だ。

(どうしよう…)

ジャックは何も知らずうちに来るだろう。あの懐かしい日々を共に過ごした彼に、今の自分を見られたくなかった。──いや、もしかすると、母は何か喋ったのではないだろうか?自分達の年齢で久々に逢う友人同士が、部屋で喋るだけなどという約束はおかしくないだろうか?遊星の不名誉が、ジャックに──遊星は顔を上げた。薄暗い室内が目に入る。壁の棚いっぱいに並んだフィギュア。詰み上げられた漫画やゲームの箱、ぐちゃぐちゃの配線で床が見えない。無造作に引っ掛けられた服。敷きっぱなしの布団。泣きそうになった。

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